Short Stories 6
2013.7.14
第2次世界大戦時のユダヤ人強制収容所へ送り込まれ、劣悪な環境に置かれ、死と対峙している状況で、正常な精神を保っていた人たちは何を思っていたか・・・または何をしていたか、という話を聞いたことがあります。引き離された家族、突然死んでしまう、またはいなくなってしまう隣人、密告、過酷な労働、満たされない食事、どれを取っても人間が健全な生活をするにはほど遠いことだと思います。その中で正常な感情や理性を保った人々は特別に強い心の持ち主だったわけではなく、彼らは歌を歌い、詩を創り、絵を描き、ダンスをして、笑いを楽しんでいたというのです。芸術や文学は人を救い、それらを支えに現実とは思いたくない深く澱んだ灰色の生活を、明るく鮮やかな世界に変えていたのです。芸術や文学や思想は大変な事態が起きた時点ですぐに役立つものではありませんが、人が人である感情を保つための拠り所であり、強く言えば心の柱なのだとあらためて確認した話でした。そしてそれに携わっている私は、支えられていると同時にこれらが人にとって必要であるという実証をしなければいけないのだとも感じたのです。
公演するにあたり、ご尽力とご協力いただきました皆様に深く感謝いたします。
photo:テス大阪